研究概要 |
<背景と目的>医学の分野において,糖尿病や高血圧など,多因子疾患の発現機構の解明が重要な課題となっている.多因子疾患に関与する多数の遺伝子座(QTL)および環境因子は相互に影響し合っていると予想され,従来の1つのQTLのみを取り上げたQTL解析法ではその全容の解明は難しい.そこで,a)複数のQTL,b)QTL間の交互作用(エピスタシス),c)ポリジーン効果並びにd)環境効果を取り上げた混合遺伝モデル(Mixed Inheritance Model)による多因子疾患発現機構解明のための新たなQTL解析法を開発する.a)およびb)については実験家系をもとに,c)およびd)については外交配家系をもとに理論的検討を行い,最終的に両者を結合する.<検討結果>まず,第一段階として,a)およびb)のトピックスについてモンテカルロ法に基づく数理解析アルゴリズムの観点から理論・方法論的検討を行い,新たな複数のQTL解析法であるMonte Carlo-Interaction Mapping法(MC-IM法)を開発した.本法の特徴として,1)エピスタシス効果の検出を主効果の検出とは独立に行うこと,2)Greedyサンプリングによるエピスタシス効果の高速探索,3)主効果は持たないが交互作用効果のみを持っているQTLの検出,4)Permutation testによるエピスタシス効果の有意性検定が可能であることなどが挙げられる.図に,Q_1とQ_3が主効果を持っており,Q_2とQ_3の間にエピスタシスが存在する場合でのMC-IM法によるQTL解析の結果を示す.Q_2のようにエピスタシス効果のみを持つQTLも検出できている.また,すべてのQTLの分散成分を正しく推定することができた.<考察>新たに開発したMC-IM法により,主効果を持つQTLのみならず,従来検出が困難とされた主効果は持たないがエピスタシス効果だけを持っているQTLをも同時に速やかに複数検出することが可能となった.本MC-IM法の確立によって,これまでに提示されている他の複数QTL解析法(e.g.Kaoら(1999)によるMIM法など)以上に,集団内で互いに様々な形で関与しあっている複数のQTLを確実に検出する道が開かれたと結論付けられる.
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