肥満におけるインスリン抵抗性(インスリン感受性の低下)には脂肪細胞から分泌される液性因子が関与することが示唆されている。そこで、本研究では脂肪細胞が分泌する新たな液性因子遺伝子を同定し、そのインスリン抵抗性における役割を検討することを目的とした。培養脂肪細胞の分化の各段階、および肥満、非肥満マウスの脂肪組織(傍睾丸周囲、皮下、大網の各脂肪組織)からmRNAを抽出し、DNAマイクロアレイ解析により遺伝子発現パターンを比較した。培養脂肪細胞のDNAマイクロアレイ解析では成熟脂肪細胞に特異的に発現する液性因子遺伝子を約40個同定し、そのうち22個はかつて脂肪細胞に発現することが報告されていなかった遺伝子である。なかでもα1acid glycoproteinは肥満患者、糖尿病患者で血中濃度が優位に上昇することが以前から知られており、肥満におけるインスリン抵抗性に関与する可能性が示唆される。現在、中和抗体の作成やリコンビナント体の大量調整等の通じてα1acid glycoproteinの生体における糖代謝への関与について検討中である。 また、肥満マウスと非肥満マウスから得た脂肪組織を用いた解析では、肥満マウスの脂肪組織において優位に増加する遺伝子を約60個同定した。そのような遺伝子の中には、代謝調節関連蛋白、転写因子・核蛋白、細胞内情報伝達分子、アポトーシス関連蛋白などをコードする遺伝子が含まれており、また、分泌遺蛋白遺伝子も少なくとも8個存在した。現在、肥満で優位に増加する液性遺伝子の機能を培養細胞系を用いた検討を行っている。
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