研究概要 |
<背景と目的> 乾癬は,免疫病としての側面と同時に代謝異常症としての側面を併せ持つ難治性多因子病の一つである.本邦での発症頻度は欧米のそれに比較すると約10分の1と低いと推定されているが,詳細は不明である。本研究の目的は,日本乾癬学会を通じて検体を収集し,罹患同胞対法を用いた連鎖解析により,多因子疾患である乾癬の発症を支配している遺伝子座を同定し,最終的に疾患感受性遺伝子そのものを明らかにすることである. <検討結果> 乾癬の多発家系が実際に存在することが全国規模のアンケート調査の結果より明らかとなり,本症の発症に寄与する遺伝要因の解明への足掛かりを得ることができた.HLA-Cw^*06と乾癖との相関は人種差を問わず共通して観察される.日本乾癬学会の全面的協力のもとに,乾癬多発家系の収集に着手した.遺伝子取り扱いに関する倫理審査の問題が浮上してきたため,研究計画が当初より遅れた点は残念であったが,その遅れも次第に取り戻しつつある.本年度の研究により以下の成果を収めることができた. 1.乾癬多発家系は本邦において60家系存在すること. 2.乾癬発症の候補遺伝子の一つとして,欧米からヒト第6染色体短腕上に存在するMHC遺伝子領域内TNF-α遺伝子プロモーターの変異が報告されたが,本邦ではその多型性に有意なズレは認められなかったこと. <考察> 元来,人類共通の祖先集団はHLA-Cw^*06とTNF-α(A at-238)が乗るハプロタイプを有していたが,日本人の先祖では,たまたま疾患感受性遺伝子とTNF-α遺伝子との間に組換えが生じたハプロタイプがより多くなったため,白人集団でみられるような疾患感受性遺伝子とTNF-α遺伝子との相関が検出できなかった可能性が示唆される. 今後,収集した乾癬多発家系のDNAを用いたゲノム解析により乾癬の発症に寄与する原因遺伝子の同定ならびにその機能解析に全力を注ぎ,本症の遺伝子診断および新しい治療法の開発への道を開拓していきたい.
|