本研究はcomplex diseaseである高血圧の遺伝的素因解明への一つのアプローチとして食塩感受性に着目した。従来より食塩感受性の頻度に少なからず人種差が存在すると推定されてきたが、その定義や測定方法が報告間で必ずしも一致しないために評価が困難であった。そこで我々は先ずパイロット・スタディを行い、簡便かつ実用的なプロトコールを作成してきた。このプロトコールでは、入院下で検査を行うという制約はなく、血圧値とともに血中ホルモンの動態をモニターする。こうして4つの人種にまたがる貴重なデータベースを作成し、調べたphenotypeと候補遺伝子座の一塩基多型(SNPs)との関連を解析すること、さらに日本人がcomplex diseaseの遺伝学的な研究対象として有利かどうかをpopulation geneticsの見地から検討すること、等を主な研究目的とした。 【検討結果】正常血圧ないし(内服治療を行なっていない)境界型高血圧の者を対象に食塩感受性の評価を複数の人種で行い、各人種とも100〜200人のデータベースを構築する。初めに1週間、通常の食事をとりながら利尿剤(25mg/day hydrochlorothiazide)を内服してsodium depletion stageとし、その後1週間、通常の食事以外に180mEq分の食塩を摂取して食塩負荷を行う(sodium loading stage)。本年度は研究組織の準備を行い、またブラジルの日系人移民60人と神戸在住の日本人35名を対象として実際にサンプル収集を開始した。 【考察】こうして集められたデータベースは食塩感受性を介した血圧上昇機序の解明に役立つばかりか、遺伝子解析の資源としても大変貴重である。また複数の人種を食塩感受性という観点から比較することで「人種差」についての検討も可能となろう。
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