神経発生に関わる遺伝子ネットワークを大規模に解析することを目指し、神経芽腫に発現する遺伝子の大量クローニングおよびそのDNAチップの作製を進めている。本年度は以下を行った。 1)オリゴキャップcDNAライブラリーからのDNAチップに用いる遺伝子の収集 予後良好群および予後不良群の神経芽腫オリゴキャップcDNAライブラリーから約2000クローンずつ単離し、両端シーケンシングを終了した。相同性検索の結果、新規の可能性があるクローンは約4割であった。両群の間で出現する既知遺伝子が明らかに異なっており、異なるサブセットを材料として用いることで、神経系の遺伝子をより網羅することができると考えられた。 2)テストチップの作製 予後良好群ライブラリーからのクローン約2000クローンと、コントロールとして用いる既知遺伝子17個をドットしたテストチップを作製し、ハイブリダイゼーション条件を決定した。このチップを用いて神経芽腫細胞株へのレチノイン酸を用いた分化誘導により8つの遺伝子の発現量の変化(2倍以上)を同定した。同じRNAを用いた半定量RT-PCRの結果、そのうち6つの遺伝子について再現性が見られた。現在さらに予後不良群を加えたチップの作製を進めている。 3)予後良好群および不良群の間で発現に差のある遺伝子の同定 両群で発現量が有意に異なる遺伝子を各群16症例ずつを用いた半定量RT-PCRにより検索した。予後良好群ライブラリーからの1269種類の遺伝子について検討を行ったところ、207種類の遺伝子において両群における発現量が異なっていた。このうち101種類は未知遺伝子であった。一部については定量real-timePCRにより差を確認した。予後良好群で高く不良群で低い発現を示す遺伝子群には、シナプス小胞輸送に関わる遺伝子(RABなど)や、神経堤由来細胞の分化増殖に関与する転写因子(TFAP2B)などが含まれていたことから、差が見られた新規遺伝子についても神経の分化増殖シグナルの経路に関与してくる可能性があり、今後の解析が必要と考えられた。これらの半定量PCRの結果は、新たな神経分化関連遺伝子の同定に結びつくと共に、今後のチップ実験を行う際に良いコントロールとなり、また、それぞれの方法の比較検討を可能にするため、非常に有用であると考えられる。
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