遺伝性疾患の保因者診断における障壁の一つは、遺伝子産物の構造異常を伴わず、その発現欠如や低下が原因と考えられる症例が相当数存在し、現行の方法では診断できないことである。そこで、我々は遺伝子コード領域の多型(cSNP)を活用し、種々の病態を、原因遺伝子の発現の量的差異、特に発現の誘導や抑制に対する動的変化の差異の見地から解析する方法として、RNA Difference Plot(RDP)法を確立した。すなわち、多型を示すゲノムDNA、並びにmRNAから得たcDNAの同一断片を、蛍光標識プライマーを用いてPCRによりそれぞれ増幅し、塩基配列自動解析装置を用いたSSCP解析により分離し、各増幅産物の量比を測定した。そしてアレル特異的な遺伝子発現量を、PCR反応のサイクル数に依存せず、高い感度で定量することができること、二つのアレルからの発現量の比に関する結果が標準偏差10%以内で測定できることを示した。次にRDP法を用いることにより、c-myc遺伝子の両アレルからの発現量が、健常人の正常リンパ球では、正確に等量であることを示した。この量比は、細胞に血清刺激を与えて、c-myc遺伝子の発現を4倍程度まで誘導しても変化しなかった。このようにRDP法は、アレル特異的な遺伝子発現の高度定量的解析を可能とし、方法が簡便であり、しかもcSNPを示すあらゆる遺伝子が解析可能である等の特長をもつ。従ってRDP解析は、本態性高血圧症等、種々の生活習慣病の原因遺伝子や候補遺伝子の同定、病態解析、保因者診断等に応用可能である。今後個々の症例について発現の誘導や抑制に対する動的変化を含めて検討していく予定である。
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