研究概要 |
平成12年度は、ガス壊疽の起因菌、ウェルシュ菌の全ゲノム配列の決定が終了し、3,031,430bpの染色体塩基配列が明らかとなった。ウェルシュ菌染色体のG+C含量は28.5%と著しく低く、計10個のrRNA遺伝子と96個のtRNAが存在していた。また、芽胞形成に関与する遺伝子も計62個が同定され、芽胞形成菌としての特徴が明らかとなった。2,660の遺伝子が同定され、すべての遺伝子についてアノテーション作業を行い、それらの機能を分類した。約55%の遺伝子について機能が推測でき、残りについては機能未知の遺伝子として分類した。これらの作業を通じて、ウェルシュ菌はアミノ酸代謝系の遺伝子のほとんどが欠損しており、外界からのアミノ酸獲得が不可欠なこと、嫌気性菌の大きな特徴であるTCA cycleが欠損し、発酵系の遺伝子群が存在すること、ATPaseとしてF-typeとV-typeの両方を持つこと、輸送系の遺伝子がゲノムサイズに比して豊富に存在し、外界からの物質の取込みに寄与していること、などが新たな知見として得られた。 ウェルシュ菌の新たな病原遺伝子候補としては、従来より同定されている遺伝子の他に、数種の溶血毒素遺伝子、腸管毒素に類似した毒素遺伝子、2つのシアリダーゼ遺伝子、さらに5つのヒアルロニダーゼ遺伝子が新たに発見された。これらの遺伝子のゲノム上の位置はいわゆるpathogenicity islandを形成せず、染色体上にちりばめられて存在していた。これらの病原遺伝子群のうち、5つのヒアルロニダーゼの遺伝子の発現をウェルシュ菌total RNAを用いて検討した結果、5つのヒアルロニダーゼ遺伝子のうち、3つがウェルシュ菌の二成分制御系VirR/VirSシステムによって負に転写調節されていることが明らかとなった。また、グルコース存在下においてヒアルロニダーゼ遺伝子の発現を調べると、明らかなカタボライト抑制が見られることが明らかとなった。このことは、ウェルシュ菌のヒアルロニダーゼ遺伝子群が環境や細胞内情報伝達系によって発現制御を受けることを示しており、本菌の病原性発現に密接に関わっていることを示すものと考えられた。
|