植物マイコプラズマは国内外で農業上甚大な被害を与えている。植物の花組織や茎頂組織の形態形成に影響を及ぼすことや植物及び昆虫を宿主とするなど、生物学上興味深い特徴も持っている。しかし培養が困難なため、病害発生機構の解明は非常に立ち遅れている。そこで本研究では、植物マイコプラズマのゲノム構造の全容を解明することで、その病理の分子機構に関する基盤的知見を得ることを目的とした。細胞内寄生性の植物病原細菌として初のゲノム解析となり、ゲノムの機能ネットワークを解明する端緒となることが期待される。 本研究ではゲノムの全体像の把握を目指し、一次構造の解析の準備に着手した。良質なゲノミックライブラリーを構築するには純粋なゲノムDNAの大量精製が重要であるため、植物マイコプラズマの大量増殖系の確立に取り組んだ。植物マイコプラズマのゲノム解析に用いる系統は、16S rRNAによる系統解析から最大のグループに属するタマネギ萎黄病ファイトプラズマ(OY-W)を選択し、宿主にはシュンギクを用いた。液体窒素中で1時間以上篩部組織を破砕し、分画遠心分離により精製植物マイコプラズマ画分を得た。さらにゲノムDNAの精製のためパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)を行い、約1Mbpのゲノムを含むDNA画分を得た。 種々の検定植物を用いたサザン解析により、篩部組織を豊富に含むシュンギクは宿主として最適であることが明らかとなった。これは篩部局在性であることに一致し、宿主としての親和性も高いことが示された。PFGEによりげのむDNAの精製度を高めたが、高分子DNAであることからアガラーゼを用いての回収率は非常に低く、良質なライブラリーの構築にはさらなる回収率の向上が必要であることが示唆された。
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