<背景と目的>細胞における糖分子の認識と応答は多様な生物の生命活動の中でさまざまな役割を担っている。たとえば酵母においては、グルコースは細胞内セカンドメッセンジャーであるcAMPレベルの上昇を引き起こし増殖のスイッチをONにすると考えられている。酵母におけるこのような糖分子の認識と応答については、古くからよく知られた現象である。しかしながらこれら糖分子を認識しシグナルを伝達する受容体はこれまで明らかにされず、その作用機構についてもほとんど解明されていなかった。申請者は、出芽酵母における栄養源認識機構の解明を行い、Gタンパク質と共役したグルコース受容体遺伝子GPR1のクローニングに初めて成功した。出芽酵母においては、1996年に全ゲノムの配列が明らかにされ、ポストゲノム時代に突入しており、糖分子によって転写活性化される遺伝子群の包括的解析は、最も重要な課題である。本研究においては、GPR1を介する糖分子シグナル伝達経路の解明を行うとともに糖分子シグナルによって転写活性化される遺伝子の包括的解析を行うことにより酵母における糖分子受容機構の解明を行う。 <検討結果>出芽酵母の野生株及びGPR1遺伝子欠損変異株について転写に差のある遺伝子の検索をDNAチップを用いて包括的に行った。その結果、GPR1遺伝子破壊株においては、細胞増殖時のタンパク質合成に関与する一連の遺伝子群の転写減少が認められた。<考察>遺伝子発現プロファイルの結果から、グルコースのシグナルはGpr1を介してタンパク質合成を促進し細胞増殖を制御していることが考えられた。現在DNAチップにより明らかとなった遺伝子の転写調節領域をレポーター遺伝子と組み合わせることでグルコースセンサー酵母の構築を行っている。
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