1.Pol II転写開始におけるヒトTFIIEβの二本鎖DNA結合領域の機能解析 ヒトTFIIEは、αとβがα2β2の4量体を形成し、転写開始と伸長への移行に機能する。転写開始では、TFIIEが転写開始点すぐ上流に結合し、複合体活性化とDNAの一本鎖開裂を助ける。我々は、TFIIEβ中央コア領域が二本鎖DNAとの結合領域で、羽状-ヘリックス構造をとることをNMRを用い明らかにした。そこで、この領域のDNA結合アミノ酸残基の機能解析を行った。DNA結合残基に点突然変異を導入すると、転写活性が著しく低下した。また、この領域が転写開始の際、DNA結合に重要であることを明らかにした。 2.線虫TFIIEを用いたPol IIの転写開始から伸長への移行段階の解析 我々は、TFIIEの機能を解析する目的で線虫TFIIEを単離しヒトTFIIEと比較検討した。ヒトと線虫TFIIEのサブユニットを組み合わせたキメラTFIIEを発現・精製し、転写再構成系にてヒトTFIIEと機能的互換性を検討したところ、線虫βはヒトβと部分的に置き換ったが、線虫αは置き換らなかった。原因を検討すると、線虫αはヒトβとの結合活性が10%以下となりヒトTFIIEの様な転写活性を示さないことが分った。一方、線虫βはヒト転写系では伸長への移行活性が低かった。TFIIEは、Pol II最大サブユニットのCTD配列の2番目と5番目セリンのTFIIHによるリン酸化を促進する。ヒトαと線虫βのキメラでCTDリン酸化を調べると、5番目セリンリン酸化活性が著しく低下していた。今回、伸長への移行はPol IICTDの5番目セリンリン酸化と密接な関連性があることが示唆された。ヒトゲノム解読が完了しようという今、「情報はいかに発現されて機能するのか」という問題が、今後のテーマになる。我々の結果は、生命現象を解明する重要な指標と成ると考える。
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