研究概要 |
(目的)哺乳類の概日リズム形成の遺伝子システム解明のため、ラットの概日時計が存在する視交叉上核(SCN)でそのmRNAの発現にリズムを示す新規遺伝子scop及びcasein kinase(CK)1εを、Per1と結合する新規遺伝子産物B10(PIPS)を、それぞれ、発見した。本研究ではこれら遺伝子の役割と、それら遺伝子産物と相互作用する蛋白質を解析して、体内時計機構の遺伝子システムを解明する事を目的とした。 (結果)1)Casein kinase(CK)1ε-CK1εとCOS7細胞に共発現させるとそのkinase活性に依存してmPer1とmPer3を核内移行させるが、mPer2を核内移行させないことを認めた。核内移行はリズム形成に重要であるので、CK1εによるmPer1,2,3のリン酸化部位の同定と核内移行の機構につき検討中である。2)B10(PIPS,Per1 interacting protein of the SCN)-COS7細胞にPIPSとmPer1とを共発現させるとmPer1を核内移行させるので、生理機能解明のためにgene targeting法によるmPIPSのKOマウスの作成に取りかかっている。3)SCOP-i)COS7細胞に発現させるとSCOP蛋白質のPH domainの単独発現ではSCOPは細胞膜へ移行するが、PHとLRRの両domainや全長発現では細胞質に分布する、ii)抗SCOP抗体を用いてラット脳抽出物を免疫沈降するとK-Rasが共沈する、iii)293T細胞に膜結合型のSCOPを発現させると、FGF刺激によるERKの活性化が抑制される、等を認めた。以上の結果はSCOPが時計機構の細胞内シグナル伝達に関与することを示唆する。4)BIT-ラットのSCNでそのチロシン残基のリン酸化に概日リズムがあり、暗期における光照射によりそのリン酸化が亢進する蛋白質として既知のBITを同定した。BITは体内時計の光同調に関与する可能性があり、光照射の代わりにBITをリン酸化する抗体投与によりSCNのBITをリン酸化したところ、光照射無しに光照射と同様の概日リズムの位相移動を引き起こした。この結果はBITが時計同調に関わることを示唆する。
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