研究概要 |
TATAボックス/イニシエーター等のコアプロモーター構造を認識する基本転写因子TFIIDは、転写開始前複合体のアッセンブリーに際して核となる分子であり、転写調節因子から受け取った信号を転写量の増減へと変換する上で中心的な役割を果たす。我々はTFIIDサブユニット(TAF)の生体内機能について解析を進める過程で、yTAF145のN末端に存在するTBP機能阻害領域(TAND;TAF N-terminal domain)がTFIIDによる転写活性化の分子スイッチとして機能する可能性を見い出した。またコアプロモーターの認識能に異常をきたすyTAF145点変異体(N568Δ,T657K)を新たに単離し、認識配列を決定するべく詳細なエレメントマッピングを進め、これらの変異株においてはTATAボックス以外のコアプロモーターエレメントの認識に異常が見られることを示した。 一方、上記ΔTAND株についてゲノムスケールで標的遺伝子を探索したところ、再現性のある14個の候補遺伝子を見出した。標的遺伝子の数が見かけ上極めて限られているのは、他の転写因子複合体が転写活性化においてTFIIDと重複した役割を果たすためと考えられる。またN568Δ,T657K株についてもアレイ解析を行い、それぞれ約240個、約500個の標的候補遺伝子を同定した。またN568Δ株については約240個、T657K株については約500個の候補遺伝子を同定したが、このうち170個が共通であり、残り70個、330個についてはそれぞれの変異株に特異的であった。すなわち少なくとも170+70+330=570個の遺伝子の発現が、何らかの形でyTAF145の中央領域の機能に依存するものと考えられる。
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