研究概要 |
1.背景と目的:ゲノムのC値パラドックスの主因の一つである、高度反復配列レトロ因子のゲノム上での分布動態やその活性化、増殖、生物学的重要性について、実験モデル系を用いて解析する。分子構造解析の進んでいる単細胞緑藻クロレラの染色体に人為的傷害を誘導し、特定レトロ因子の挙動を分子レベルで追跡する。これにより、(1)染色体高次構造変化、(2)DNA再編成、(3)遺伝子変換、(4)染色体修復・保護におけるレトロ因子の役割などを実証する。2.検討結果:電子線照射系によって、計12種のクロレラミニ染色体(300-800kbp)形成を誘発した。そのうち、Y32ミニ染色体(380kbp)の末端構造解析を行った。この染色体の右末端4.1kbpには、少なくとも3コピーのLINE型レトロトランスポゾンZepp(Zepp-1,Zepp-2,Zepp-3)が新たに付加されており(タンデム型)、最末端コピー(Zepp-3)の約400bp部分がテロメア配列と置き換わっていた。この構造は、先に第一番染色体末端に見出されたZeppクラスター(EMBOJ,16,630-639,1997)と酷似しており、染色体切断点におけるZeppの順次転移による修復を示唆している。さらに、第一番染色体由来ミニ染色体P7(800kbp)の詳細な構造解析を行ったところ、切断点にSINE因子が発見された。このレトロ因子は、全染色体上に多数分散しており、DNA再編成におけ名重要性が示唆された。3.考察:染色体切断のストレスに対応して、二種類のレトロ因子(LINE,SINE)がその修復、再編成に積極的に関与する証拠が得られた。詳細な分子機構については、未知な部分が多く今後の課題である。従来はジャンクDNAと考えられていたレトロ因子が、ゲノムの多様化・巨大化・複雑化・進化において、重要な寄与をしているという考え方を、本研究結果は支持している。
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