分裂酵母の胞子形成は減数分裂を伴う配偶子形成過程で、母細胞の細胞質内に新たに細胞膜を構築する点で興味深い。分裂酵母ゲノムを構成する遺伝子の約1割がこの過程に関与するものと推定している。本研究はこれらの胞子形成必須遺伝子をゲノム規模で単離し、遺伝子産物の発現調節、細胞内局在の決定を通して複雑な細胞分化の全体像を明らかにすることを目的として行った。 胞子形成必須遺伝子は次の3つのカテゴリーに分類できる。I.胞子形成にのみ特異的に機能するもの、II.複数の相同遺伝子がゲノムに存在し、栄養増殖と胞子形成で分業しているもの、III.栄養増殖と胞子形成の両方に必須の働きをするもの。本年度、上記3つのカテゴリーに分類される多くの胞子形成遺伝子を単離できた。そのうち重点的に解析した前胞子膜形成に関わる遺伝子産物には次の様なものがある。クラスI:Spo3(胞子細胞膜に局在する新規膜タンパク質で、細胞膜構築に必須)、Spo13(スピンドル極体に局在するコイルドコイルタンパク質で、胞子細胞膜形成の足場を提供)、クラスII:Spo4/Spo6(増殖に必須のHsk1/Him1キナーゼ複合体の胞子形成用のホモログで、第2減数分裂の開始を介して胞子形成を制御)。クラスIII:Psy1(細胞膜への膜小胞の融合を制御するシンタキシン類似タンパク質で、胞子細胞膜構築のための膜小胞の融合を制御)、Spo20(Sec14ホモログで胞子細胞膜形成に必須)。これらのタンパク質の機能解析と細胞内局在解析により、分裂酵母の胞子細胞膜形成機構の理解を深めることができた。
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