研究概要 |
ゲノム配列決定の次の課題は、遺伝子機能の特定である。特に創薬への応用を考える際、遺伝子産物である蛋白質の化学的な機能、つまり蛋白質と他分子との間の相互作用を理解することが重要である。そこで本研究では、データベース解析と分子シミュレーションの互いの利点を生かした解析法を開発することにより、立体構造に基づいた化学機能の予測法の開発を目指した。当面の対象として、すでに多くの立体構造が明らかにされているモノヌクレオチド結合蛋白質を扱った。まず、2000年4月のPDBから,モノヌクレオチド結合蛋白質667個,1190結合部位を同定した。これらの結合部位はそのままでは統計処理に適さない冗長性を含んでいるので、原子の空間配置の類似度に基づき代表構造425個を選別した。これら代表構造に対して、分子シミュレーションと連携しやすい物性として、分子表面、静電ポテンシャル分布を計算しデータベース化を行った。PDBの記述は必ずしも完全ではなく、系統的な構造-機能相関の解析の妨げとなってきた。これに対して、モノヌクレオチド結合蛋白質立体構造データベースを構築し、インターネット上に公開できたことは今年度の重要な成果である。また、近年の超並列計算機を念頭においた並列計算技術を開発し、分子動力学計算システムに応用した。このシステムを、代表構造の一つであるRas蛋白質に適用し、結合部位の表面形状,電場揺らぎ及び結合自由エネルギーの解析を行った.この結果、静的な立体構造を対象とするだけでは不十分であり、立体構造の柔らかさ、特に結晶が得られにくい基質非結合状態が重要であることがわかってきた。機能予測における非結合状態の構造の重要性は、動的構造まで含めた解析手法の構築により初めて得られる知見である。
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