本研究では、まず残基間の空間距離とペプチド鎖に沿ったアミノ酸配列上の距離の情報に基づいて、蛋白質の部分構造を分類する際の定量的な指標としてエントロピー尺度を考案・検討し、蛋白質の部分構造の安定化機構を明らかにすることをめざした。さらに、基本フォールドの熱力学的な安定化の機構を理解するための重要な物性量として、分子体積の精密測定法とその溶媒条件依存性とに注目し、高精度の熱測定と密度測定によりこれらを評価する手法を確立することをめざした。 本研究で新たに開発したエントロピー尺度は、立体構造の類似度の高いものだけでなく、構造が大きく異なる立体構造間の定量的な比較においても有用であることが明確に示された。蛋白質立体構造データベースの全部分構造を調べた結果、100残基程度の部分構造の多くは1エントロピー単位(eu)内に入っていることがわかった。また、これらの構造からは大きく異なる立体構造も少数ではあるが存在する。これらの特異な構造は、モジュールのようなコンパクトな構造はもたずに他の部分構造との相互作用により安定化されていると考えられる。また、高精度の熱測定と密度測定により、溶液中での蛋白質の部分モル体積を希薄溶液で精度高く測定する手法を確立し、pHや温度変化、構造転移に伴う体積変化を測定する手法を確立することに成功した。 既に構造のわかっている蛋白質中に見られる部分構造の多くは、アミノ酸鎖が取り得る部分構造の中で、部分構造の中で十分な相互作用を行うことでコンパクトな構造をとっているものであり、このようにしてできる部分立体構造は、エントロピー尺度を利用して分類できる可能性が示された。分子体積の溶媒依存性を実測した結果から、立体構造の安定化の機構が分子体積と密接に関係することが示唆された。
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