蛋白質の立体構造のパターンは数千程度と予想されている。これから類推すると蛋白質機能のパターンも同程度のオーダーであると考えるのが妥当であろう。蛋白質の機能のメカニズムを理解するためには、蛋白質の立体構造を静的にとらえるのでは不十分であり、動的立体構造すなわちゆらぎが重要である。蛋白質の機能メカニズムのパターンを系統的に調べるために、ゆらぎのパターンを調べることが必要となってくる。将来的にはすべてのゆらぎのパターンを調べることが重要であるが、本研究ではまず免疫系の蛋白質の多くに含まれているイムノグロブリンドメインに注目することにした。 ひとつの蛋白質のゆらぎのパターンにおいても、局所的なものからドメインのゆらぎまで様々なレベルのものがあるが、ここでは(1)いわゆるドメインのゆらぎ、(2)実際に観測されるのゆらぎや構造変化(複数の結晶構造や分子シミュレーションから得られるもの)から定義されるリジッドな構造単位(いわゆるダイナミックドメイン)のゆらぎ、(3)活性部位などの局所的なゆらぎなどに大別してとらえることにする。 これまで得られた結果は次のようなものである。CD2分子のように1つのイムノグロブリンドメインで他の分子と結合する場合には、実際に分子と結合する部位のある程度局所的だが協奏的に10〜3残基がゆらぐパターンが見られる。これらの部位はいわゆるCDR(Complementary Determining Region)と呼ばれる部位で、(2)や(3)にあたるこれらの部位がゆらぎのパターンをもっていることが明らかになった。TCR(T Cell Receptor)のように2つのイムノグロブリンドメインが結合に関わる場合には、(1)にあたるドメイン間のゆらぎのパターンが見受けられた。 (1)(2)(3)のレベルのゆらぎのパターンはそれぞれ機能的に重要であると考えられる。今後これらのパターンを更に探索範囲を広げて見ていく必要があると考えられる。
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