ゲノム情報から対応する蛋白質の立体構造情報を抽出し、その立体構造に基づく生化学的機能の理解が求められている。蛋白質ファミリー代表の立体構造から、相同性の低い部位やフレキシブルな部位の立体構造モデリングを行うことは、本質的に困難である。本研究の研究代表者である中村らによって最近開発された、構造サンプリングによる分子構造の自由エネルギー地形を描く新しいシミュレーション手法によって、これら部分構造の信頼性の高いモデルを作成することが目的である。一方、分子表面の形状と物性の見地から蛋白質の分類・整理することにより、蛋白質の構造と分子機能への関連付けをすることが、もう一つの目的である。 構造サンプリングによる演繹的なモデリング手法の開発を進めた。計算結果を大きく左右するポテンシャル関数に対して、ペプチドフラグメントに対する実験との対比を行い、力場の有効性を考察するとともに、ab initio量子化学計算による補正手法を提案した。その結果、10残基程度の長いペプチド・フラグメントに対し、実験と一致する自由エネルギー地形を描くことができた。構造サンプリングによる演繹的なモデリング手法は、リガンド結合によって構造変化を起こす場合に対しても有効であることが確認できた。 一方、蛋白質の分子表面電位、疎水性・親水性等にも対応づけられた表面形状をカラーで図示し、electrostatic-surface of Functional site(eF-site)と呼ぶデータベースを作成し、インターネット上で公開した。描かれたeF-siteの表面図形を客観的に識別し、表面の分類を行うため、分子表面の高速識別手法として、グラフ理論を基にしたクリーク探索手法用いて解析する手法を開発し、同一の抗原に結合する抗体の識別や、セリン・プロテアーゼの活性部位を異なるフォールド上で認識できることができた。
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