まず、我々が開発を続けている粗視化モデルのさらなる改良を行った.とくに、a)側鎖が1〜10程度のロータマー間を動くことができるようなモデル、b)2次構造予測サーバーの結果を読み込んで、2次構造形成傾向にバイアスをかける方法、及び、c)タンパク質の既知立体構造データベースを利用したエネルギーパラメータの改良を行った.従来から問題であったβシートの形成について、最終的な解決はいまだ達成していないが、b)の2次構造予測サーバーの利用によって、実用的にはある程度のβシート形成が可能になった. 立体構造予測には、効率よい構造サンプリングが不可欠である.本年は、a)レプリカ交換法による高速構造サンプリング、b)高分子鎖の通り抜けをゆるすファントム鎖モデル、c)前2法を組み合わせたファントム鎖レプリカ交換法、を構築しその有効性をテストした.a)のレプリカ法は、並列計算に適しており、構造予測、平衡状態の物理量計算に多大な威力を発揮する.b)c)の方法は、ある程度の手がかりをつかんだものの、いまだに完全に機能するには至っていない.今後の詳細なチューニングが必要である. 上記モデルを用いて、アミノ酸配列情報のみから立体構造予測のベンチマークテストを試みた.αヘリックスからなる短いタンパク質(アルブミン結合タンパク質ドメイン、ファージリプレッサーなど)では予測はある程度成功する.従来からの課題であったβシートを多く含むタンパク質(SH3ドメイン、protein Gなど)については、Architectureレベルで立体構造の特徴をつかむことは可能な場合が多いが、目標であるトポロジーレベルの予測は未だ難しいことが分かった. 2年に一度行われているタンパク質の立体構造予測コンテストCASP4に参加し、我々の予測プログラムの達成度を他のグループと比較した.我々のプログラムには、局所的な分子の幾何学的パラメータの精度に難があることが判明した.一方、難しいトポロジーをもつタンパク質の大まかな形状では、他者と比べても、よい予測を与える場合があった.このコンテストでは、局所構造の一致が重要な採点基準になるので、ペプチドの幾何的情報のリファインメントが、今後の重要課題である.
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