研究概要 |
〈目的〉遺伝子発現調節の解明に必要不可欠である遺伝子制御ネットワークのモデル化手法やシミュレーション手法を,特に多細胞動物形態形成メカニズムを意識して,ハイブリッドペトリネットを基盤技術に用いて確立する。 〈検討結果〉多細胞動物形態形成メカニズムとして,側方抑制におけるNotch情報伝達系をとりあげた。 数理モデル化の研究グループでは,Notch情報伝達系の遺伝子制御ネットワークをハイブリッドペトリネットを用いてモデル化し,Deltaタンパク質について,その生成量や隣接細胞への伝達量の変化が細胞パターンに及ぼす影響を調べた。さらに,生物システムのモデル化手法を確立するため,遺伝子制御ネットワーク,代謝経路,及びシグナル伝達経路の各々について,生物学的に知られた系を取り上げ,Visual Object Net++によってこれらの系を記述し,シミュレーションを行った。 ショウジョウバエ消化管の形態形成を研究しているグループでは,Notch情報伝達系のモデル化やシミュレーションのための基礎データを実験によって収集することと並行して,適確な実験計画を立案するための思考活動を助けることを目的としたシミュレータのプロトタイプを作成した。 以上によって得られたモデル化手法や生物学的データ,作成したシミュレーションツールを公開するため,webサーバを立ち上げた。 これらに加えて,これまでに蓄積された生物学的事実を効率よく獲得するための知的文献検索ツールを作成し,パン酵母ミトコンドリアの遺伝子ネットワークに関するMEDLINEアブストラクトをこのツールによって収集した。 〈考察〉生物学者はハイブリッドペトリネットによる生物システムの記述法を自然に受け入れることから,これが数理モデル化手法として有効であることが確認できた。さらに,発生生物学の研究者自身がシミュレータのプロトタイプの作成を行ったことで,生物学者にとって使いやすいツールを開発するための基本的な方針を得ることができた。
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