老化に伴ってあるいはアルツハイマー病(AD)において変化する蛋白リン酸化反応の全貌を明らかにする目的で、アルミニウムイオン(Al^<3+>)のリン酸化蛋白に対する選択的結合作用に基づいた、リン酸化蛋白分離法を開発した。その原理は、Al^<3+>を固相化した担体を充填したカラムに、脳組織粗抽出液を通して、その中に含まれるリン酸化蛋白を吸着・溶出するものである。Tauをモデル蛋白としてこのカラムの分離能を検討した結果、このカラムによる蛋白の吸着は、標的蛋白のリン酸化に依存し、そのリン酸化の程度に応じて、吸着の効率が決まることが示された。AD脳組織を対象にして、このリン酸化蛋白分離法の実用性に関する予備実験を行った。AD脳組織抽出液をこのカラムに吸着させた後の溶出液を二次元電気泳動にかけ約60の蛋白スポットを単離した。切り出したそれぞれのスポットを蛋白分解処理後、得られたペプチドの分子量を測定し、peptide mass finger printingに基づいた蛋白検索を行った結果、19の既知の蛋白が同定された。この中にはAD脳病変形成への関与については未検索の蛋白と共にAD脳NFTの形成に関与することが示された蛋白(collapsin response mediator protein等)が含まれていた。今後この方法を用いて、老年脳あるいはAD脳において特異的に量的変化を来すリン酸化蛋白基質を単離・同定する。リン酸化蛋白の同定は、細胞内における特定のリン酸化反応の様相を解明する上で重要であると共に、老化あるいはADに伴って変化する生物学的反応系の全貌を明らかにし、細胞レベルにおける老化とそれに関連する病態のメカニズムを解明する一助となるものと期待される。
|