家族性アルツハイマー病や長寿に伴う痴呆患者の脳には、アミロイドβ蛋白質(Aβ)と呼ばれる不溶性のペプチドが沈着している。このAβは、アミロイドβ蛋白質前駆体(APP)の異常なプロセシングによって生ずることが明らかになっているが、正常の脳ではAβの中間でαセクレターゼによって切断されて沈着は起こらない。最近、ADAMファミリーと呼ばれるメタロプロテアーゼ群(ヘビ毒に存在するディスインテグリンドメインとメタロプロテアーゼドメインを持つ膜結合型プロテアーゼ)のいくつかにαセクレターゼ活性が認められることが我々を含むいくつかの研究室から報告されており、この中には一般の細胞膜結合型蛋白質の切断分泌に関わる重要な酵素も含まれている。このαセクレターゼと他のセクレターゼのクロストークを明らかにするために研究を行い、以下の結果を得た。(1)TNFαなどAPPに類似した膜蛋白質のプロセシングと細胞外への分泌が、膜結合型メタロプロテアーゼ(MMP、ADAM)ファミリーによって触媒されている例を参考にアプローチを進め、αセクレターゼとしてADAM9(MDC9/meltrinγ)を同定した。このADAM9は、TPAによって活性化されるが、そのとき同時にβセクレターゼ活性が低下することを見出した。また、逆にADAM9の特異的阻害剤添加によってαセクレターゼ活性を低下させると、相対的にβセクレターゼ活性が上昇することがわかり、明らかなクロストークが見とめられた。(2)ADAM9には可溶性のスプライシングバリアントも存在し、実際に細胞外に分泌されていることも初めて明らかにした。この結果は、今まで考えられていたようにαセクレターゼがトランスゴルジまたは分泌顆粒内で働くだけではなく細胞表面のAPPに外から作用する可能性を示唆し、薬剤によってセクレターゼ活性を調節することが可能であることがわかった。
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