研究概要 |
グルタミン酸は、ほ乳類の中枢神経系において記憶・学習などの脳高次機能に重要な役割を果たす神経伝達物質としての作用だけでなく、神経系の発生・分化にも関与するシグナル分子としての作用を持っていると考えられいる。しかし、記憶・学習における役割に比べ、中枢神経系形成シグナル分子としてのグルタミン酸の役割は不明な点が多い。我々は、細胞外グルタミン酸濃度調節にとって重要な役割を果たす2種類のグリア型グルタミン酸トランスポーター欠損マウス(GLT1,GLAST)を作成した。これら2つの欠損マウスを掛け合わせグリア型グルタミン酸トランスポーターを全く持たないdouble knockout mouse(DKマウス)を作成したところ、DKマウスは胎生18日頃に死亡し、その中枢神経系に様々な形成異常が観察された。本研究ではDKマウス胎児の中枢神経系の発達過程を詳細に解析すると共に、その異常のメカニズムを解析し、中枢神経系形成シグナル分子としてのグルタミン酸の役割を明らかにする。GLT1欠損マウス、GLAST欠損マウスには、脳の形態異常は観察されなかった。また、胎生13日から胎生17日までのDKマウス胎児脳にも、形態異常は観察されなかった。しかし、胎生18日のDKマウス胎児脳には、嗅球め僧帽細胞の消失・海馬錐体細胞の層形成不全・小脳の小葉形成不全など様々な形態異常が観察された。今後は、これらの中枢神経系形成異常の機序を明らかにしていく予定である。また、GLASTが神経幹細胞・グリア前駆細胞のマーカ分子であることを見つけた。現在GLAST遺伝子座を用い、神経幹細胞・グリア前駆細胞をマーキングした遺伝子改変マウスを作成中である。
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