鳥類の雛では、苦みのある餌の形や色を覚えてそれを避けるようになる受動的回避という学習行動がみられることが知られており、破壊実験によって哺乳類の皮質連合野に相当するといわれるIMHVやLPと呼ばれる脳領域がこれに関与することが明らかになっている。本研究では、この学習行動の成立の基盤となる、IMHVやLPを中心とした脳領域がどの様に形成され、また、学習行動の成立に伴ってどの様に変化するのかについて明らかにすることを目的としている。 解析の手始めとして、今年度は、IMHVやLPが初期発生において、脳原基のどの部分から、いつごろ発生・分化してくるのかについて焦点を当てて解析している。ニワトリ胚では少なくとも孵卵開始後12日目の胚で終脳の層構造とIMHV様の構造が認められた。また、ウズラ細胞とニワトリ細胞が形態学的に識別できることを利用して、ウズラ・ニワトリ胚間で脳原基の部分交換移植を行った結果、IMHVは終脳の背側部の一部の領域から発生することが明らかとなった。さらに、神経回路を可視化して解析することができるような実験系を確立することをめざして、神経細胞にWGAを発現するトリ胚を開発することにも取り組んでいる。発現ベクターに組み込んだ遺伝子をエレクトロポレーションによって、あるいはウィルスベクターを用いて、トリ胚において効率よく発現させる方法について条件検討を行った結果、ウイルスベクターに強力なプロモーターを組み込んだコンストラクトを作製し、使用することが最良であるとの結論を得た。 今後は、これまでの研究をさらに進めて、正常トリ胚でのIMHVやLPの起源と発生様式をさらに詳細に確定すること、そしてWGA発現胚と非発現胚との間でキメラを作製することによってIMHVやLPの関与する神経回路の発生・発達について、学習行動の成立との関連も含めて調べていく。
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