研究概要 |
本研究は、大脳辺縁系内の複数の脳領域に存在し、異なる機能を有するニューロン間の相互作用を解析することにより、ニューラルネットワークにおける情報変換機構を解明することを目的とする。本年度は、自由行動下ラットに慢性的に取り付けるマイクロドライブ付マルチ電極を新たに開発し、異なる領域に埋め込んだ2本のマルチ電極を独立に駆動させることに成功した。実験は2種類行い、視覚誘導性報酬課題では、十字迷路の4隅のライトを特定の順番で点灯させ、ラットにライトの点灯したボックスに順番に進入して水を摂取するように学習させた。このとき、ラットの訪れる順番に従って各ボックスの報酬価を水7,5,3,1滴(一滴:30μml)にした。次に4つのライトを同時に点灯させ、ラットに同じ順番で各ボックスを訪れることを学習させた(記憶誘導性報酬課題)。この2種類の課題遂行中に海馬体および側坐核から同時にニューロン活動を記録し、相互相関法により両領域ニューロン間の発火パターンを解析した。 記録した総数154組のニューロンペア(海馬体65個,側坐核56個)のうち、108組が少なくとも1つの迷路アームで有意な相互相関を示し、そのほとんどが4つのうち1つのアームでだけ有意差がみられた(場所選択的相関)。多くの海馬体ニューロンの発火は側坐核より10〜30ms先行し、海馬体から側坐核へ1方向性に投射しているという神経解剖学的事実と一致した。また、3つの異なる行動期に分けて解析した結果、報酬領域の近辺で強い相関がみられた。さらに、相関の高い18組のうち、10個の海馬体ニューロンで9HzのΘリズムが認められ、そのうち8ペアでΘリズムの相互相関が観察された。以上より、海馬体および側坐核の同期性は場所および行動依存性があり、Θリズムが海馬体-側坐核の機能的結合性に重要な役割を果たしていることが示唆された。
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