本研究では、一群の分子シャペロンに共通の転写因子を鍵として、分子シャペロン蛋白質群の神経細胞での高発現を導くことで神経変性疾患の治療の可能性を検討するのがねらいである。私たちは、活性型の熱ショック転写因子HSF1の作成を試みた。HSF1は通常は非活性型で存在しており、細胞内へ高発現しても転写活性化能の亢進は認められない。そこで活性を負に制御する領域を欠失したミュータントHSF1を作成して細胞に導入した。その結果、一群の熱ショック蛋白質の発現が亢進することを確認した。なお調べた細胞系では、その高発現が細胞増殖、分化そして細胞死に顕著な影響を与えることはなかった。長いポリグルタミンを融合させた蛍光蛋白質GFPをヒトHeLa細胞へ発現させると細胞内凝集体の形成と細胞死を導く。あらかじめ活性型HSF1を高発現しておくとそれらの変化が抑制されることが確認された。この結果から活性型HSF1の高発現はポリグルタミン病の治療に有効であることが示唆された。今後、神経細胞に活性型HSF1を発現させたトランスジェニックマウスを作成してその効果を確認したい。
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