研究概要 |
我々は、プレセニリン1(PS1)が小胞体(ER)に多く局在する事実から、ER機能とPS1に注目している。近年、ERにはそのストレスからの独特な離脱機構があることが注目されている。それらは、Ire1或いはPERKといったER膜上の分子がERストレスにより生じたunfolded proteinの増加を検知することから生じ、GRP78などの分子シャペロン誘導や蛋白転写抑制することにより、ストレスからの離脱を図るという機構である。これまでの我々の検討で、FAD変異型PS1はERストレス下のIre1の活性化(リン酸化)を阻害し、神経細胞のストレス脆弱性をもたらすことが示されている(Nat Cell Biolog,8,479-485,1999)。今回、我々はもう一つのERストレス反応系であるPERKを介する系とPS1の関係について検討した。PERKはER内のunfolded proteinを検知すると、自らがリン酸化を受けダイマーを形成する。そのシグナルは開始因子eIF2αをリン酸化し、蛋白の翻訳を抑制する系を活性化する。それにより、新たに蛋白がER内に送り込まれないようにしてERの負荷が軽減される。変異型PS1を発現させた細胞にthapsigarginやDTTでERストレスを負荷し、PERK自身及びeIF2αのリン酸化を検討したところ、野生型PS1及びMOCKを導入した細胞に対し、抑制傾向が見られた。この結果より、PERKを介するERストレス反応に関しても変異型PS1が抑制的に働くことが示唆された。IRE1とPERKのERストレス検知ドメインは相同性が高いが、変異型PS1が両分子に抑制的に働くことから、このERストレス反応機構にPS1が関与していると考えられる。
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