視神経切断端に末梢神経片を移植吻合すると、哺乳類においても網膜神経節細胞の軸索である視神経が再生する。この時、(1)視神経を再生する細胞、(2)視神経を再生しないが生き残る細胞、(3)末梢神経移植を施しても変性する細胞の3種類に網膜神経節細胞の反応性が分かれ、かつそれらの性質が転写レベルで制御されているらしいことを、これまでの研究で明らかにしてきた。 神経栄養因子受容体は、移植末梢神経片が分泌する軸索再生因子、生存促進因子の受容体であると考えられるので、それらの転写産物の局在を、In situ hybridizationにより調べた。full-length trkBはラット網膜神経節細胞の一部にのみ発現していたが、dominant negative receptorであるtruncated trkBは、すべての網膜神経節細胞で発現していた。従って、ラットの網膜神経節細胞には、truncated trkBだけ発現し神経栄養因子に反応できない細胞と、truncatedとfull-length trkBの両方を発現し、神経栄養因子に反応できる細胞とが、転写レベルで分けられていることを意味する。さらにはNGFの受容体とされ、発生過程では網膜神経節細胞の細胞死に関与するとされるp75も、発現する細胞としない細胞があることが判明した。以上の結果により、末梢神経移植を施しても、細胞死に至る細胞が存在することは遺伝子発現のレベルで既に決定されていると考えられる。従って再生視神経数を増やす試みには、神経栄養因子を追加投与する試みだけでなく、生存や軸索伸長に関わる遺伝子を網膜神経節細胞で強制発現してやることが不可欠であると推測できる。既にadenovirus vectorによる眼球内細胞への外来遺伝子導入のシステムが確立しているので、引き続いて動物個体レベルにおける遺伝子操作による視神経再生促進に挑戦していきたい。
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