アルツハイマー病の原因遺伝子として見出されたプレセニリン(PS1、PS2)はセクレターゼ活性に関与することが注目されているが、蛋白質リン酸化酵素GSK-3βやタウ、β-カテニンと複合体を形成することが見出されている。また、アルツハイマー病で認められる神経原線維変化は、神経細胞内で微小管結合蛋白質タウがGSK-3βやcdk5、MAPキナーゼにより高度にリン酸化された状態であり、GSK-3βの活性制御機構はアルツハイマー病の発症機構に関与する可能性が高い。一方、GSK-3βの活性はWntシグナル伝達経路によって制御されることが知られている。Wntが細胞膜上の受容体Frizzledに結合すると、そのシグナルはDvlを介してGSK-3β活性を抑制し、GSK-3βによるβ-カテニンのリン酸化と分解を抑制することによりβ-カテニン/TCF複合体の形成を促進して標的遺伝子を発現する。私達はこれまでに、GSK-3β結合蛋白質AxinがGSK-3βやβ-カテニン、Dvl、APCなどのWntシグナル伝達経路構成分子と複合体を形成し、シグナルが効率良く選択的に伝達されるための足場蛋白質として働くことを見出した。最近、Dvlは神経細胞内で微小管と結合することや、微小管の安定性に関与する可能性が報告されており、Wntシグナルを伝達するだけでなく他の経路でもGSK-3βの活性を制御する可能性が出てきた。今年度はDvlと結合する新規蛋白質を検索し、Idaxを同定した。IdaxはDvlと結合してDvlとAxinの複合体形成を阻害し、動物細胞においてWnt依存性のβ-カテニンの蓄積や遺伝子発現の促進を抑制した。アフリカツメガエル初期胚を用いた実験モデルでは、IdaxはDvlによる二次体軸形成を抑制した。したがって、Idaxは生物種を越えてDvlの活性を抑制して相対的にGSK-3βの活性を維持する方向に作用する可能性が示唆された。来年度は、Idaxが神経細胞でDvlやGSK-3βを介してタウのリン酸化や微小管の安定性を制御して神経細胞死に関与するか否かを解析する予定である。
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