α-synucleinはパーキンソン病の発症に関与する重要な蛋白として注目を集めている。しかし、α-synucleinが神経細胞内でどのように修飾を受け、どのような機序で凝集体を形成するのか、そのプロセスは未だ不明である。われわれはα-synucleinをリン酸化する酵素の検索を行い、α-synucleinのリン酸化がα-synucleinの凝集に及ぼす影響を検討した。中枢神経でシグナル伝達に重要な役割を担うチロシンキナーゼであるFyn、Lyn、PYK2、FAK、およびセリン・スレオニンキナーゼであるMAPK/ERK1、SAPK/JNK、Cdk5をそれぞれCOS7細胞に発現させ、[γ-32P]ATPを用いて免疫沈降キナーゼアッセイを行った。基質にはGST融合α-synuclein蛋白を用いた。今回検討した7種類のキナーゼのうち、Fynがα-synucleinのチロシン残基をリン酸化した。家族性パーキンソン病で報告されているA30PおよびA53T変異型α-synucleinもFynにより同様にリン酸化された。α-synucleinは4つのチロシン残基(Y39、Y125、Y133、Y136)を持つが、Fynによるα-synucleinのリン酸化部位はY125であることが判明した。脳内におけるα-synucleinの発現は黒質、線条体、海馬などに多く、Fynの発現部位と一致し、また免疫蛍光染色と共焦点レーザー顕微鏡による観察でもα-synucleinとFynは細胞内で共存し、細胞内でα-synucleinがFynによりリン酸化されることが推察される。さらにチロシンがリン酸化を受けていない高純度のα-synuclein蛋白をstreptolysin-OによりSH-SY5Y細胞に導入し培養したところ、生きた細胞内にα-synucleinからなる凝集体が容易に形成された。リン酸化、脱リン酸化や、ニトロ化などによるα-synucleinのチロシン残基の修飾は、α-synucleinの凝集機序や、神経変性過程を解析する上で重要であると考えられる。平成13年度は、平成12年度の成果をふまえ、さらに研究を進める予定である。
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