ほとんどの抑制性回路が介在神経細胞によって構成されているため生体において抑制性回路のみを選択的に活性化することは困難であるという技術的制約のため、抑制性神経回路の発達変化の制御の研究は殆ど報告をみない。この中で、聴覚系外側上オリーブ核には対側音入力がグリシン作動性抑制性として入力する。成熟ラットにおいて外側上オリーブ核細胞に入力する抑制性シナプス電流はグリシン受容体阻害薬であるストリキニンによってブロックされた。しかし、生直後のラットにおいてはGABA受容体阻害薬であるビククリンによってブロックされた。このことは、この核に入力する伝達物質がGABAがらグリシンに発達変化したこと示す。この変化は未熟期に両側内耳を破壊すると阻害されたため、単に日齢に従うのではなく、入力する神経活動に依存していることが判明した。一方、神経筋接合部における発達に伴うシナプスの脱落は神経筋伝達をブロックすると遅延したため、神経活動に依存した過程であることが予測される。脱落前に過剰シナプスが共存できるメカニズムとして神経終末間の競合開始前には複数の終末の活動が同期している可能性が考えられる。そこで、脊髄前角の運動神経細胞間の電気的カップリングを調べたところ、シナプスの脱落に2-4日先行してカップリングが消失することが判明した。さらに、過剰シナプスの脱落が早期に終了する呼吸関連筋においては生直後には運動神経細胞間カップリングが消失していることが確認された。以上の結果から、選択的シナプスの脱落の開始は運動神経細胞間の活動の独立化が関連していることが示唆される。
|