研究概要 |
脳内のコレステロール代謝平衡は血漿リポタンパク質からは独立し、脳内で独自に産生されたHDLにより担われ、HDL欠損症においても中枢神経系の障害を認めない。脳独自のHDL新生機構の探索の結果、アストロサイトは自ら合成する内因性のアポEによりコレステロールに富むHDLを産生する一方で、外因性のアポA-I等に反応してコレステロールの乏しいHDLを産生することが分かった。さらにこの仕分けは形質膜のraft domainのスフインゴミエリンによるコレステロール分子の拘束により制御されていることが示された(Ito J,Nagayasu Y,Yokoyama S.J.Lipid Res.2000,41:894-904.)。また、アストロサイトは未分化型ではアポE合成を行わず外因性のアポリポ蛋白質によってコレステロールに富んだHDLを新生する事から、このような特徴は細胞の分化とそれによる内因性のアポEの生合成能によって調節されることが示唆された(Zhang LY,Ito JI,Kato T,Yokoyama S.J.Biochem.2000,128:837-845.)。アストロサイトには神経細胞との共培養で強いアポE産生とコレステロールに富んだHDL放出が見られ、これは神経細胞からの液性因子によるアストロサイト自身からの酸性FGFの放出によるものであることが分かった。これらの結果は、アストロサイトの2種類のHDLの分別産生機構は脳の障害修復機転と関連があることを示した。
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