研究概要 |
正常成熟ウィスターラット(2ヶ月令)と老齢ラット(24ヶ月令)の脳における各種ステロイドホルモン受容体蛋白の発現を免疫組織化学的に検索し、比較検討すると、グルココルチコイド受容体(GR)、アンドロゲン受容体(AR)、エストロゲン受容体(ER)においては老化に伴い顕著な発現低下が認められ、またこれらステロイドホルモン受容体と共同して核内で転写調節に関わるp300,SRC-1といったいわゆるco-factor蛋白群の発現も老化に伴い顕著に低下することが観察された。さらには、ChAT,GAD,THといった神経伝達物質の合成関連酵素の免疫染色の結果から、種々神経伝達物質の老化に伴う発現の低下が示唆された。電子顕微鏡による観察から、老化に伴って多くの神経細胞ではリポスチン顆粒の著明な増加、核の不整化、細胞小器官の発達の低下、細胞間隙の拡大等の微細構造上の変化が認められた。ただし、これらの老化に伴う変化には脳の部位差もあり、例えば大脳皮質、海馬、扁桃体などのいわゆる辺縁系では変化が比較的著明で、それに対して視床下部などの神経内分泌に関わる部位では比較的変化が緩やかな傾向が認められるが、現在さらに詳しく解析している。一方、超高圧電子顕微鏡を用いて、ゴルジ鍍銀法にて染色した脳の試料をステレオ観察すると、大脳皮質、海馬などの神経細胞の樹状突起における棘の形態学的な変化が認められた。すなわち、若い動物においては神経細胞の樹状突起の棘が比較的多数、頭部と尾部の構造を保ちつつ観察されるが、老齢ラットにおいてはこの棘の様子が異なり、数の減少や形状の様々な変化が観察された。現在、統計学的な解析も交え、検討を重ねている。さらに、電子顕微鏡レベルでの免疫組織化学やディープエッチング法を駆使して、これら神経細胞の細胞骨格成分の老化に伴う変化についての検索も始めつつあり、老化に伴う神経細胞の分子細胞化学的な変化をまとめつつある。これらの研究結果は神経科学会、解剖学会、米国神経科学会等で発表し、いくつかの結果については欧文誌に投稿中である。
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