成熟脳の神経回路形成には可塑的転機が存在するはずである.たとえば脳損傷後に高次脳機能の回復が起こることは臨床上明らかであるにもかかわらず、そのメカニズムは未だ解明されるに至っていない.脳損傷における機能回復は基本的には成熟脳におけるシナプス伝達機能の修飾によるものであることが考えられる.この回復メカニズム、すなわち可塑的転機が明らかになれば脳のシステム回路形成の解明にもつながる.本年度は電気生理学的な変化とstructure-based plasticityの関連を調べ、ニューロン単位のPET画像の実現に向けて研究を進めた.脳外科の手術のあとの脳損傷の回復期にPETで"DAG-spot"という現象が起こり、それがニューロン単位の現象であることが判ったが、何故それが出現するのかメカニズムは不明であった.今回、64channel recorder(Panasonic)を用いた海馬スライスの実験から、LTPの電気生理学的な変化とstructure-based plasticityの関連が明らかになった.LTPによりPKCやactinなどの活性が誘発され、それがDAG-spotの誘因となった.一方、ポジトロンCTを用いたマクロ的なアプローチでは、脳の損傷部に対応する代償的回路を複数の脳領域の単一神経群を画像化しmulti-centricな画像解析を行った結果、回復期には連合野に有意に"DAG-spot"が出現した.このことから損傷により活性化されたオールタナティブネットワークは連合野を介してsilentneuronを活性化し成熟脳の可塑的転機を促していることが明らかになった.
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