哺乳動物中枢神経細胞の樹状突起におけるグルタミン酸感受性の機能分布を測定し、また脳標本の局所刺激法を開拓する目的で、2光子励起による局所的グルタミン酸投与法の開発を行い実用に耐えるケイジド試薬の合成に成功した。この試薬を細胞外に投与しながら海馬培養細胞をホールセルクランプして電流記録を行い樹状突起部位において超短パルスレーザー照射を行うとシナプス後電流とほとんど同じ速い時間経過で一過性内向き電流が活性化した。このグルタミン酸電流は励起光のパワーの2.2-2.5乗に依存した。これは、励起が2光子過程であること、及び、グルタミン酸の受容体への結合の共同性からよく説明される。この電流の空間分布を測定するために、およそ10ミクロン四方の樹状突起領域を覆う500ピクセルの各点において、グルタミン酸電流を記録するシステムを構築した。こうして記録されたAMPA電流は、FM1-43で標識されるシナプス前終末に接する樹状突起に限局してパッチ状に分布していることが解像した。このパッチの空間分布から、我々のシステムの空間解像はx軸で0.74ミクロン、z軸で1.2ミクロン以下であることが推定されたこのケイジドグルタミン酸誘導体は水溶液中で極めて安定で、微量のグルタミン酸の漏出も起きないので、グルタミン酸に高親和性のNMDA受容体の分布測定も可能であった。実際、AMPA成分とNMDA成分の大きさは樹状突起の部位により異なり、ほぼNMDAにのみ感受性を示す領域も観察された。こうして、2光子励起法を応用した我々のシステムは脳標本においてシナプスの重み分布やその動態、或いは単一シナプスレベルの局所刺激を行うことのできる新しい方法論であることがわかった。
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