研究概要 |
我々は大腸菌の突然変異誘発蛋白質であるDinBのヒト、及びマウスにおけるホモログをコードする遺伝子を同定して、それぞれDINB1,Dinb1と命名した。大腸菌のDinBはerror-prone DNAポリメラーゼであるPol IVであることが示されたので、ヒトのDINB1蛋白もまた同様の活性を持つことが考えられた。そこで、大阪大学の花岡教授らのグループと共同して、ヒトDINB1蛋白をバキュロウイルスの過剰生産系を利用して精製した。試験管内DNA合成反応によって、確かにこの蛋白もDNAポリメラーゼを持つことを示し、Polκと命名した。Polκは紫外線照射によって生じるようなDNA損傷部位や抗がん剤のcisplatinが付加されたような損傷部位をバイパスすることは出来ないが、塩基部分が欠落したAPサイトや発がん剤のN2-acetylaminofluorene(N2-AAF)が付加した損傷部位をバイパスすることが明らかになった。とりわけAPサイトをバイパスする時には廻りの塩基配列によっては-1の欠失を、またN2-AAFのバイパスの際にはGからAへの置換変異を引き起こしやすいことが明らかになった。 一方、アメリカNIEHSのKunkel博士らとの共同研究により,PolκがDNA損傷を持たないM13ファージの一本鎖DNAを鋳型とした場合のエラー発生頻度と測定した。その結果、Polκは塩基置換変異、とりわけTからGへのトランスバージョン変異を高頻度に引き起こすことが判明した。またフレームシフト変異も高頻度に観察されたが、その発生頻度は他の酵素の場合とは異なり同一塩基が並んだ数にはそれほど大きく依存せず、むしろ近傍の塩基配列に片寄りが存在した。このことはPolκが従来から考えられて来たようなスリッページモデルとは異なるメカニズムでフレームシフト変異を誘発することを示唆している。
|