研究概要 |
本研究ではHCV蛋白質の細胞内機能と肝発がんとの関係を明らかにすることを目的として、HCVコアおよびNS5A蛋白質の転写調節能や遺伝子不安定性に及ぼす影響を調べ、以下に示すような結果を得た。HCV蛋白質の転写調節能に関しては、HCV高感受性株であるヒト肝PH5CH8細胞を用いて、昨年度のコア蛋白質に引き続いて、NS5A蛋白質の発現により影響を受ける遺伝子群の解析を行い、Collagen type IV alpha-1,Zyxin related protein-1,Prothymosin alpha,RAF oncogene,Cytokeratin 18およびE2F-1 pRB-binding proteinの6種類の発現が高進していることを明らかにした。さらに、昨年度見い出したコア蛋白質による2′-5′オリゴアデニル酸合成酵素(OAS)遺伝子プロモーターの活性化についてさらに詳しく解析した。その結果、コア蛋白質による2′-5′OAS遺伝子プロモーターの活性化はinterferon処理によりさらに増強されることが分かった。また、この活性化はE1、E2、NS5A蛋白質を発現させた場合には認められず、活性化の程度は導入したコア蛋白質発現ベクターの量に比例していた。アミノ酸配列が異なる各種遺伝子型(1a,1b,2a,2bおよび3a)由来のコア蛋白質もこの遺伝子プロモーターを活性化した。2′-5′OAS遺伝子プロモーターの活性化は転写レベルで起こっていることがノーザンブロットにより確かめられた。さらに、内在性の2′-5′OAS遺伝子の活性化も同時に起こっていることが明らかとなった。2′-5′OAS遺伝子プロモーターの欠失変異体やinterferon stimulated response element(ISRE)の配列を有するレポータープラスミドを用いて解析したところ、コア蛋白質による2′-5′OAS遺伝子プロモーターの活性化はISREを介していることが示唆された。遺伝子不安定性に関しては、上記の肝細胞とレトロウイルスベクターによる発現系を用いて、ミスマッチ修復系に属するマイクロサテライト不安定化能に関する細胞レベルでのアッセイ系の開発を行い、実用的なシステムを得ることができた。この新たに開発したアッセイシステムを用いてHCV蛋白質がマイクロサテライト不安定性にどのような影響を与えるかを検討した結果、コア蛋白質の発現により、マイクロサテライト不安定性が増強される傾向にあることが分った。NS5A蛋白質の発現ではこのような現象は認められなかった。現在、この現象をさらに追究するとともに、他のDNA修復系のアッセイ系についても構築中である。
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