研究概要 |
ラットのC6グリオーマ細胞よりクローニングしたL-タイプアミノ酸トランスポーター1(LAT1)をもとにヒトLAT1を単離した。即ち1.ラットのLAT1とLAT2をもとにヒトの腸管と腎よりcDNAライブラリーを作成して、ヒトLAT1とLAT2を分子クローニングした。ツメガエル卵母細胞の発現系を用いて機能解析を行ったところ、hLAT1/4F2hcではLeu,Ile,Phe,Met,Tyr,His,Trp,Valの側鎖を有する分子の比較的大きい必須アミノ酸を含む中性アミノ酸を高親和性に輸送した。他方hLAT2/4F2hcはLAT1の基質に加入、Ala,Ser,Thr,Cys,Asn,Gln,Metなどの比較的小分子の中性アミノ酸をも含むより選択性の広い輸送特性を示した。2.ヒトの手術摘出がん組織でのhLAT1,hLAT2,4F2hcの発現の解析大腸がん、胃がんを中心に病理組織学的結果をhLAT1,hLAT2,4F2hcの各抗体による免疫組織化学染色の結果とをがん組織と非がん部分とに分けて検討した。異型性が強く、未分化像が明瞭な悪性度の高い組織にはhLAT1と4F2hcの染色は細胞膜上に強く検出され、hLAT2抗体による染色性は極めて弱かった。3.ヒト由来がん細胞を用いたin vitro及びin vivoの実験ヒト膀胱がん由来T24細胞はhLAT1/4F2hcを高発現しており、hLAT2の発現は認められなかった。このT24細胞を用いてin vitroの実験系とした。又in vivoの実験としてはICRマウスにマウスsarcoma由来S-180細胞を播種した実験系を用いた。Lタイプアミノ酸輸送の抑制物質のBCH(2-aminobicyclo-(2,2,1)-heptane-2-carboxylic acid)はT24細胞の増殖を強く抑制した。LAT1の特異性をより明確にする為にhLAT1のアンチセンスオリゴを作製して、T24細胞に加えると、増殖を強く抑制した。in vivoのICRマウスを用いたS-180の増殖による個体死はBCHの処置により有意に延命効果を示した。 LAT1の機能が細胞の増殖を制御しているという単純明快な機構の存在が本研究により明らかにされた。この機構を利用して、がん組織の悪性度の診断並びにhLAT1/4F2hc系の特異的な抑制による新しいがん治療法の確立が期待される。
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