研究概要 |
ヒト白血病には高頻度に起こる様々な染色体転座が関与しており、AML-1は急性リンパ性白血病などにおいて転座が認められる遺伝子として同定されている。AML-1のT細胞における役割を明らかにする目的から、Dominant Negative型AML-1 Tg(AML DN Tg)マウス及び、レトロウイルスを用いたAML-1発現系による解析を行った。 AML DN Tgマウスのマイクロアレイによる解析から、AML DN TgマウスT細胞ではcyclin,tubulin,progesterone receptor,癌抑制遺伝子、nexin,myosin関連蛋白,ferrutin結合蛋白などの遺伝子で優位に発現が低下していることが認められた。AML DN Tgマウス及び、レトロウイルスを用いたAML-1発現系の解析から、AML-1はT細胞におけるサイトカイン産生において非常に特徴的な役割を持つことが分かってきた。すなわち、AML-1はIL-2及びIL-4産生に対して抑制的に働くのに対し、IFN-γの産生に対してはほとんど抑制効果を示さなかった。さらに、このAML-1による抑制は、直接IL-2及びIL-4遺伝子のプロモーター領域に働いた結果であることが分かってきた。ナイーブT細胞におけるAML-1の蛋白発現は、TCR刺激を受けるにともない短時間で減少していくことから、ナイーブT細胞がIL-2及びIL-4などのサイトカインを効率良く産生するためには、TCR刺激に伴うAML-1の発現抑制制御が必要である可能性が考えられた。また、この抑制効果を制御する領域としてAML-1のC末端側が必要である事、そして、この領域にGrouchoなどの転写を抑制的に制御する転写因子が会合する事が報告されている事などから、AML-1は抑制的働きを持つ転写因子がC末端側に会合することが、IL-2やIL-4の転写抑制に関与している可能性が示唆された。また、AML-1を恒常的に発現するTh1細胞株では、微量ではあるが持続的なIL-2の産生が認められ、IL-2の添加なしに増殖しうる事が観察された。このAML-1発現によって起こるT細胞の持続的増殖は、AML-1とリンパ腫との関係を示唆する重要な知見であると考えられる。
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