脊椎動物で見られる唯一の生理的なDNA修飾であるシトシンのメチル化に乱れが生じると、がん抑制遺伝子の不活性化(高メチル化による)やゲノムの不安定化(低メチル化による)を来し、がんの発生や悪性化を引き起こすと考えられている。最近発見されたde novo DNAメチル化酵素DNMT3ファミリーは、維持DNAメチル化酵素であるDNMT1とは異なり、両DNA鎖とも非メチル化状態である部位を新たにメチル化する酵素である。発がん過程におけるde novo DNAメチル化酵素DNMT3ファミリーの役割を明らかにするため、白血病細胞におけるこれらの酵素の発現量を正常骨髄細胞や末梢血白血球と比較した。その結果、急性骨髄性白血病、および慢性骨髄性白血病の急性期において、DNMT3A、DNMT3B(および維持DNAメチル化酵素DNMT1)のmRNA量が顕著に増加していることが分かった。さらに、急性骨髄性白血病のうち、がん抑制遺伝子p15がメチル化を受けている症例では、DNMT1とDNMT3Bの発現が有意に増加していた。よって、これらの酵素、とくにde novo DNAメチル化酵素であるDNMT3Bがp15遺伝子をメチル化している可能性が考えられた。以上より、DNMT3A、DNMT3Bの発現や局在を調節する機構を知ることは細胞のがん化の過程を明らかにする上で重要であると考え、DNMT3A、DNMT3Bと相互作用する調節因子の検索を開始した。また、免疫染色による解析やマウスを用いた個体レベル解析の準備を進めている。
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