研究概要 |
癌細胞の浸潤・転移においてアクチン細胞骨格の再構築の制御が重要な役割を果たしていることが知られている。例えば、RhoやRacの活性化により浸潤・転移が亢進すること、Rhoとその下流因子ROCKを阻害することによって癌細胞の浸潤・転移が抑制されることが報告されている。私達は、LIMキナーゼ(LIMK1,LIMK2)を同定し、アクチン骨格の制御におけるRac,Rho→LIMK1→コフィリンというシグナル伝達経路の存在を明らかにした。本研究では、LIMK1,LIMK2およびその類縁キナーゼであるTESK1の上流、下流因子をさらに同定し、LIMK/TESKの関与するシグナル経路を明らかにするとともに、細胞移動と接着、特に癌細胞の浸潤・転移におけるLIMK経路の役割を明らかにすることを目的として研究を行い、以下の成果を得た。 1.LIMK1はPAKおよびROCKにより活性化されることが知られているが、本研究において、LIMK2も同様にPAKとROCKによってThr-505のリン酸化によって活性化され、コフィリンのリン酸化を介して、ストレスファイバーや膜泡の形成や接着斑の形成に関与することを明らかにした。 2.TESK1はLIMKと同様にコフィリンのSer-3をリン酸化し、細胞に高発現させると、ストレスファイバーの形成、接着斑の形成などアクチン骨格の再構築が誘導されることを見い出した。TESK1はLIMKとは異なり、ROCK、PAKによって活性化されないが、インテグリンシグナルによって活性化されることを見い出した。 3.好中球のfMLP刺激や、T細胞のSDF-1刺激によって、LIMK1が活性化され、コフィリンのリン酸化レベルが亢進することを見出した。SDF-1は、乳癌細胞の肺や肝への転移に関与することが知られており、今後、LIMK経路の癌転移への関与を明らかにしていきたい。
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