研究概要 |
c-Myc遺伝子産物の新たな転写調節のターゲットとして鉄代謝調節に働くRNA結合蛋白質IRP2(c-mycによる転写活性化)と細胞内に鉄を貯蔵するフェリチンH鎖(c-mycによる転写抑制)とが同定されたことをもとに、鉄代謝機構、特に細胞内鉄濃度調節機構と細胞増殖との関連に注目し、以下の諸点を明らかにした。 1.IRP2活性と細胞内鉄濃度、c-mycによる転写活性化,細胞増殖との関連を検討した結果,細胞増殖のさかんな早期対数増殖期においてはIRP2の鉄濃度による活性制御が抑えられ,c-mycによる転写活性化のIRP2活性(蛋白量)に与える影響が大きいことが示唆された。 2.細胞内鉄濃度の細胞増殖に与える影響を出芽酵母を用いて検討したところ,鉄欠乏下でも鉄過剰下でも細胞増殖はG1/S期で停止する傾向が観察された。これらの停止は鉄の取り込みを制御する転写因子AFT1の変異株(鉄欠乏は欠損株aft1、鉄過剰はgain-of-function変異株AFT1-1^<up>)でより顕著であった。鉄欠乏による細胞周期停止は主にリボヌクレオチド還元酵素の鉄-イオウ・クラスターへの鉄供給の減少によると考えられるがその他の原因に関しても検討中である。鉄過剰下では細胞内の鉄がフリーラジカルの発生源になり、細胞内の蛋白質が酸化されることが明らかになり、また、蛋白質酸化との関連は不明であるがG1サイクリンの蛋白質合成の抑制が観察され、鉄過剰による細胞周期停止の原因であることが示唆された。
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