TGFβによるストレス応答MAPキナーゼの活性化機構とTGFβの発癌抑制作用におけるその役割を明らかにするため、これまでに我々が同定したストレス応答MAPKKK、MTK1および、その活性化因子GADD45関連遺伝子(GADD45α/β/γ)がTGFβのシグナル伝達に関与するか検討を行った。 TGFβにより増殖抑制の誘導されるTGFβ応答細胞を用いた実験から、TGFβ刺激により一部のGADD45関連遺伝子が強く発現誘導され、またその発現量の経時変化はp38MAPキナーゼ活性化のタイムコースとほぼ一致することを見出した。一方、TGFβ不応答性細胞ではGADD45関連遺伝子の発現誘導およびp38の活性化は認められなかった。さらに遺伝子導入実験によりTGFβによるp38の活性化にSmad分子を介する新たな経路が存在することを見出した。またドミナント・ネガティブMTK1はTGFβによるp38の活性化を抑制することから、この経路にMTK1の活性化が関与することが示唆された。 さらにMTK1を介するシグナル伝達の異常と発癌との関連を明らかにするため、酵母細胞を用いてMTK1の機能異常を検出する新たな方法を開発し、この方法を用いて幾つかのヒト胃癌、肺癌細胞にMTK1の遺伝子変異が存在することを見出した。またin vitroにおいてこれらの遺伝子変異によりMTK1のキナーゼ活性化が消失することを確認した。以上の結果からTGFβによるストレス応答MAPKの活性化に、Smad蛋白質およびMTK1を介する新たな経路が存在し、その異常が発癌に関与することが示唆された。
|