研究概要 |
我々の研究目的は難治性固形癌の代表の1つである肺癌に対する,WT1を標的とした抗種瘍免疫療法,つまり癌ワクチンの開発及びその臨床応用を確立することである。今年度は,今までに得られた研究成果をもとに,特に,得られた結果がそのまま臨床に応用,移行できるような,研究計画を立て,以下の成果を得た。ヒトの臨床検体やヒトの細胞を用いた実験では,多くの肺癌検体(約80%)でWT1の高発現がみられ,WT1ペプチドワクチンが多くの症例に適応可能であること,また,改変(アミノ置換)ヒトWT1ペプチドによりWT1発現種瘍をより強く認識するCTLがより高率に誘導可能であることが示された。また,in vivoでの癌ワクチンの有効性を評価できるマウス個体を用いた実験系では,WT1DNAワクチンを前もって投与されたマウスはWT1発現種瘍を拒絶できること,さらにWT1発現種瘍を先に移植されているマウスにWT1ペプチドを適当なアジュバンドと共に投与すれば種瘍増殖を抑制できる(つまり,WT1ペプチドワクチンは,種瘍の移植前から投与されている時のみ有効なのではなく,「治療薬」としても有効である)ことが明らかにされた。 これらの実験は実際の臨床の場での癌ワクチンの投与を想定したものであり,臨床研究の基盤,背景になるこれらの基礎研究をさらに推し進めるとともに,できるだけ早期に臨床治験に進みたい。現在のところ,肺癌に関しては,早期に発見された症例に対しての手術療法以外に長期生存を期待できる手段はなく,本研究,つまり肺癌に対する新しい治療法の開発の意義はきわめて高いと考えられる。
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