研究概要 |
細胞接着阻害に基づいた新しいタイプの癌転移抑制剤の開発を念頭に細胞外マトリックスの主な成分であるラミニンの活性中心ペプチドYIGSRをモデルとして、水溶性高分子によるバイオコンジュゲーションを試みた。今回は、ペプチダーゼ抵抗性を獲得しつつ、比活性を保持しようとする観点から、出来る限り低分子量のPVP(数平均分子量6,000;PVP6,000)を使用した。なお、比較対照としては、PEG(数平均分子量5,000;PEG5,000、数平均分子量12,000;PEG12,000)を用いた。PEG5,000とPEG12,000は、同等の血中消失パターンを示し、血中半減期は僅か数分であった。一方、PVP6,000は2倍の分子サイズを有するPEG12,000と比較しても4倍以上の血中滞留性を有しており、その半減期は約16分であった。そこでPVP6,000-YIGSRを作製し、血中安定性および血中動態を検討した。PVP6,000-YIGSRの血中安定性はPEG5,000と同様、30分まで殆ど分解されず、高いペプチダーゼ抵抗性(血中安定性)を示した。このPVP6,000-YIGSRの血中動態および組織分布を検討した結果、修飾高分子自身の体内挙動と同傾向で著しく血中滞留性が向上しており、殆ど組織移行していないことが判明した。そこで次にPVP6,000-YIGSRの癌転移抑制効果をBB16-BL6メラノーマ細胞の実験的肺転移モデルを用いて検討した。その結果native YIGSRでは、1.5μmol peptide/mouseを投与した場合、約50%の癌転移抑制効果が認められた。一方、PVP6,000-YIGSRは、YIGSR量にして僅か1/100の投与量(0.015μmol peptide/mouse)において80%以上の抑制効果を示すなど、native YIGSRと比較して100倍以上の抗転移効果を有していることが明らかとなった。
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