研究概要 |
機能性材料としてすでに実用化されている無機材料の多くは,Zn, Ga, Ge, Cd, In, Snといった周期表で右下に位置するpブロック元素の酸化物や,遷移金属酸化物,さらにこれらの複合酸化物から構成されている.これらの物質は大気の酸素分圧中で点欠陥を内包し,化学量論組成から僅かにずれている.そして,この点欠陥に起因した特異な量子構造を利用して様々な機能が実現されている.しかし,金属材料と比較すると,セラミックスで最も良く研究されている金属酸化物においても,点欠陥についての定量的知見は極めて乏しい.報告されているデータも多くは1960年代までの電気伝導測定などに基づいたものであり,試料純度等の制約から定量性に疑問のあるものも散見される. 本研究は,最も基本的な欠陥種である単原子空孔に的を絞り,高精度の理論計算と陽電子寿命測定によって,その形成エネルギーを定量的に理解し,その溶質原子の存在による変化を理解することを目的としている. 昨年度は,理論計算として平面波基底による擬ポテンシャルを用いたバンド計算を行い,全エネルギーを評価し,実験に先立って,ZnOおよびMgO中の溶質-空孔相互作用を解明した.本年度は,これを実験的に検証するために,溶質元素を10-1000ppm以下のレベルで制御して導入した試料を特に作成し,陽電子寿命測定を行った.陽電子寿命からは空孔周囲の電子密度と格子緩和量が,寿命の空孔成分の強度からは空孔の絶対量が評価できた.昨年度,一旦到達したと思われた実験結果について,本年度に再現実験を試みたところ,予期しない不純物による影響が大きいことが判明し,その影響を取り除くのに半年という長い時間を要した.しかしながら,得られた新しい結果は信頼性の高いものであり,このような理論計算と実験を酸化物の欠陥について並列的に行う研究は,わが国はもとより,欧米を見ても全く例を見ない真に独創的なものなった.
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