研究課題
基盤研究(A)
SOLA-VOF法に過冷凝固を組み込んだプログラムを開発し、過冷状態の液滴の変形・急冷凝固のシミュレーションコードを完成させた。当初、ジルコニアに関する粘性や表面張力などの物性データが皆無であったことから、アルミナについての計算を系統的に行わざるを得なかったが、過冷却により粘性値が大きくなるために扁平率の低下が引き起こされるのは当然として、基板の加熱度及びリカレッセンス効果の差によって皮膜の密着強度及び構造に大きな影響を与えるであろうことが示された。即ち、外形的な変形でのみ溶射粒子の変形・凝固を議論する危険性を指摘し得たものと考える。今後は、凝固に関する核生成・成長をあらわに組み込んだシミュレーションが必要であろう。他法、その場計測は装置的にはまだまだ改良の余地はあるものの、単一溶射粒子の連続サンプリングを可能とし、500℃程度の大過冷状態で衝突する粒子の存在を確認するとともに無次元化した変形時間には明らかに融点近傍で変曲点が見いだされるなど、これまで等閑にされてきた溶射プロセスにおける過冷状態の重要性を明示し得たことが最大の成果である。また、付随する実験的成果として現在まで未知であったジルコニアの融点付近の粘性を0.013〜0.028Pa・sと推定し、接触熱抵抗値として3x10^<-6>〜4x10^<-5>m^2K/Wを導出し得た。このジルコニアの低粘性の効果はトレンチ基板を用いたアルミナ粒子の変形パターンとの対比でも明確となり、これまで往々にしてアルミナとジルコニア溶射間で安易な類推的議論が展開されてきたことへの警鐘として応用面でも有意であると考える。本研究は、当初想定していた見込みよりも困難なものではあったが、最終的には計算及び実験により大過冷溶射粒子の変形・凝固に関する知見を深化させ、「溶射の科学」に一歩近付いた成果をあげ得たものと確信する。
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