研究概要 |
本研究では,多座配位子の配位基が一部非配位のまま残っているような錯体(「配位基過剰型錯体」と呼ぶ)を合成し、その非配位基に由来する独自の諸性質を明らかにすることを目的とした。(1)四座配位子のtris(2-pyridylmethyl)amime(tpa)および六座配位子のN.N.N'.N'-tetra(2-pyridylmethyl)ethylenediamine(tpen)を配位子とする錯体。(a)平面型白金(II)およびパラジウム(II)錯体,二種類の錯体、[PtCl(tpa)]+および[Pt(tpen)]2+ならびにそのPd類似体を合成した。錯体はいずれも平面構造を維持し、tpa錯体は1ケの非配位基、tpen錯体は2ケの非配位基を持つことが明かとなった。1H NMRにより、溶液内で非配位と配位の2-pyridyk基が交換反応を起こしていることが分かった。(b)レニウムカルボニル錯体.六配位八面体型のRe(I)錯体、[Re(CO)3(tpa)]+を合成し、結晶解析により1ケの2-pyridylmethyl基が非配位である構造を明らかにした。この錯体の非配位と配位2-pyridylmethyl基の交換は、NMRスペクトルからは認められず、同型の構造のMo(O)錯体、Mo(CO)3(tpa)、が速やかな交換反応を示すことと対照的な結果を得た。(c)(IV)のtpa錯体.先に当研究室では、オキソレニウム(V)のtpa錯体が、オキソ基の強いtrans影響により、オキソ基のtrans位に来るべきpyridyl基が非配位として残ることを見い出している。しかし、同様の効果は、V(IV)O錯体ではみられなかった。しかし、tpenを配位子とした時、非配位の2-pyridylmethyl基を持つ錯体が合成出来た。(2)ジフォスフィンが単座で配位した錯体。PPh_2(CH_2)_nPPh_2を配位子とする一連の正八面体Re六核錯体を合成した。この六核骨格はサイズが大きく、通常のキレート配位子がキレート出来ない。これを利用し、単座配位のジフォスフィンを含む一連の錯体が合成出来た。(3)McMTH配位子を持つ錯体.平面型[Pt(2,2':6,2"-terpyridine)(OH)]^+のOH^-をMcMT^-の一つの-S^-で置き換えた単核錯体、および二つの-S^-で置き換えた複核錯体を合成し、その構造や性質を比較した。また、単核錯体については、-S^-部分の酸化によるS-S結合の生成過程を調べ、Pt部分の影響を明らかにした。さらに、六配位八面体型の[Ru(2,2'-bipyridine)(2,2',:6,2"-terpyridine)(McMT)]^+も合成し、同様の研究を行った。また、このPtとRu中心とを、McMTで連結した異核複核錯体も合成した。以上の錯体の中には発光性を示すものが多い。それらの発光特性についても測定を行い、非配位部分によりその特性が制御出来る可能性を明らかにした。
|