研究概要 |
本研究の目的は,ヒトの皮膚と同等の機械的構造および触覚機能をもつ人工的な皮膚を開発し,そこから得られる情報に基づいて静摩擦覚機構を実現することであった.この目的に対し,静摩擦覚機構の解明に重要な役割を果たすと考えている初期局所滑り現象とこれに関与するヒトのFAI型触覚受容器に着目した.そしてまず,ヒト指の構造的特徴を模倣して,柔軟なシリコーンゴム材の表面に指紋状の凹凸を配置し巨視的に曲率を持たせた形状を考案し,各指紋状凸部内に,対向状に1対の人工マイスナー小体(PVDFフィルムあるいは歪ゲージ)を配置した人工皮膚を構築し,さらに以下の研究を進めた. すなわち,まずPVDF回路信号の周波数特性を詳細に調べた結果,折れ点周波数を境に,応力の1次時間微分(stress-rate)特性と3次微分(stress-jerk)特性を合せもつことがわかった.つぎに,1対のPVDF回路出力あるいは歪ゲージ回路出力の差分信号についてFEMを用いた初期局所滑りの動的挙動解析結果との照合を図ったところ,指紋の滑りの前兆を表す低周波信号,またその直後に滑りそのものに対応する高周波信号がそれぞれ検出できることを確認した.さらに,人工皮膚上で物体の転がりを生じさせた場合のPVDF回路信号を調べた結果,転がりの場合には上記信号が現れないことがわかった.最後に,人工皮膚を表面に装着したフィンガを用いて,それらの物体把持実験を行った結果,重量や静摩擦係数に拘らず,物体を安定に把持することができた. 以上の成果から,本研究は,人工指紋の動的挙動および人工マイスナー小体からの情報処理を伴う初期局所滑りが静摩擦覚機構の中心的な役割を果たしていると考えることができ,また,その情報処理機構の有効性をも検証することができたとまとめることができる.
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