研究概要 |
本研究では,1998年夏期にチベット高原にて取得された地上レーダと衛星搭載マイクロ波放射計データを用いて,陸域降水のマイクロ波放射特性を調査し,降水と同時に土壌水分を推定することによって地表面の不均一性の影響を考慮した陸域降水算定アルゴリズムを開発し,TRMMに搭載されたマイクロ波放射計TMIで観測される85GHzおよび10GHzでの輝度温度データに適用して降水層の光学的厚さと地表面の土壌水分を推定した.推定された光学的厚さをメソ領域の降水量データと比較した結果,10日平均を取ることで衛星によるサンプリング頻度が降水量算定に及ぼす影響を低減し,推定光学的厚さから地上降水量の算定が可能であることが示された.一方,地上レーダで観測された降水の鉛直プロファイルと比較すると,特に融解層より上空の降雪域厚さの違いが光学的厚さの推定に強く影響を与えていることが示された. 次に,大気陸面を一括して考える放射伝達モデルを用いて,降水強度,土壌水分,地表面温度に加えて,雲水密度,水蒸気量を取り込み,シミュレーションにより大気変数に感度の高い周波数帯の組み合わせを選び出し,その情報を用いて,降水強度と雲水密度を同時に算出する手法を開発した.そこで,まず大気水情報を考慮せずに土壌水分量を求めるアルゴリズムにより,地表面からのマイクロ波放射率と地表面温度を算定し,それを境界条件として降水強度と雲水密度を同時に算出するアルゴリズムから大気水情報を算出する.次にこの大気水情報を取り込んで土壌水分を求めるアルゴリズムを適用し,これを誤差が収束するまで繰り返す手法を開発した.その結果,晴天,曇り,雨天の区別は明確になったが,降水量の定量的な推定のためには,地表面粗度の影響を定量的に把握することが必要であることが分かった.
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